「きみはいい子」 やさしさとしぶとさ

「きみはいい子」(2015)
監督:呉美保


夫が単身赴任をしており、ひとりで娘のあやねを育てている雅子(尾野真千子)には秘密がある。あやねが少しでも悪いことをすると、つい手をあげてしまうのだ。
雅子は幼少期に親から虐待を受けており、おそらくそのことが影響していて、自身もそのようになってしまっている。
一方で、手をあげるのが悪いことだという自覚はあるから、それでも行為を止められない自分にひどく嫌気がさしている。 

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「ジョジョ・ラビット」 ファッションと信念

ジョジョ・ラビット」(2019)
監督:タイカ・ワイティティ


東京には花粉が飛び始めましたが、明けましておめでとうございます。
たぶんこれが今年最後の「明けましておめでとうございます」ですが、次の「明けましておめでとうございます」もあっというまなんだろうなと思います。
桜が咲くたび、「人生であと何回これを見れるのだろう」と考えるのですが、「明けましておめでとうございます」と言うのも、人生であと何百回くらいか、と思うとちょっと寂しくなります。

2020年の一記事目はスカーレット・ヨハンソンに捧げたいと思います。
「マリッジ・ストーリー」「ジョジョ・ラビット」どちらも最高の演技でした。
アカデミー賞はアンラッキーでしたが、僕にとっては間違いなく、2019年の作品で一番印象に残った女優です。
しばらくは、靴紐を結びなおすたびに彼女のことを思い出すことになりそうです。


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「アイネクライネナハトムジーク」 ぼんやりを解体する

アイネクライネナハトムジーク」(2019)
監督:今泉力哉

「愛がなんだ」は、超高性能な顕微鏡でテルコという異分子を発見し、彼女の一挙手一投足をつぶさに観察するような作品だったと思う。
その解像度に目が慣れていると、「アイネクライネナハトムジーク」に登場する人々は、ぼんやりと映るかもしれない。
しかしそのぼんやり感は、ある意味で伏線あり、作品が終わるころにはその感覚が愛しいとすら感じられます。

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「博士と彼女のセオリー」 ブラックホールの中心

博士と彼女のセオリー」(2014)
監督:ジェームズ・マーシュ


ALSに侵されながらも物理学のフロンティアを切り開いたスティーヴン・ホーキング博士(エディ・レッドメイン)と、彼を支えたジェーン(フェリシティ・ジョーンズ)という女性の物語です。
博士と彼女のセオリー』という邦題が、これ以上なくすばらしいと思う。

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「バーニング 劇場版」についての考察

 「バーニング 劇場版」(2018)
監督:イ・チャンドン


各賞での「万引き家族」とのデッドヒートでも話題になりましたが、村上春樹の短編「納屋を焼く」を原作にした「バーニング 劇場版」(以下「バーニング」)がとても面白かったので、考察を書き残しておきたいと思います。
遠慮なくネタバレしますので未鑑賞の方は注意してください。

 

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